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【2010年代の邦楽名盤④】MOROHA『MOROHA III』(byよーよー)

●2016年のベストアルバム候補
雷に打たれるような衝撃を覚えた前作から3年、また地上を穿つような新鮮な雷に打たれている自分がいる。

前作までの二作は曽我部恵一氏の主宰するローズ・レコードからアルバムを出していたが、今作は自主レーベルYAVAY YAYVA RECORDSからリリース。

トーク番組「しゃべくり007」への二度の出演やスマホのCMなどでのナレーション、クラムボンのアルバムに作詞で参加するなど、活動の幅を広げてきたMOROHA。MCのアフロによる『俺のがヤバイ』というタイトルのエッセイ本も出版した。それらの活動では、自分たちの志を守りつつ、大人達の打算と付き合っていこうとする姿が垣間見える。

ファーストアルバムからセカンドアルバムに向かうに連れ、ギターもラップも感情がより乗るようになり、華のようなものも増した。サードアルバムである本作は前作のクオリティを維持しつつ、新たな挑戦とエモーションが渦巻くものになっている。

新しい挑戦の一つはUKのアコギにパーカッシブな音が加わったこと。アコギのボディの様々な所を叩いて音を出しているようだが、複雑なメロディを奏でながら同時並行でアコギを叩く技量がすごい。得意のアルペジオも本作はさらに磨きがかかっている。エコーがかかるとアコギの音色に心の円の隅々が染まるようだ。

●成熟した大人になり、得たものと失ったもの
本作と前作の大きな違いはリリックの成熟だ。前作の#2「革命」におけるリリックを#3「宿命」で翻す。歌詞カードには書いていないリリックだが、以下のリリックがある。『(「革命」の時の)「居酒屋だけの意気込みじゃゴミだ」と息巻いていた自分たちはめちゃめちゃダサかったよな、若かったよな、黒歴史だよな。だけど、あの頃の俺たちから見たら、今の俺たちは何色の未来なんだろうね?』。成熟で失ったものを描くことを忘れていないのだ。

そんなMOROHAは#6「VS」において、「明日死んでも構わねぇなんて飛び込めた十代と/明日が恐い 未来が恐い/だからこそ飛び込む今現在/なぁどっちが勇気だと思う?/なぁどっちが力強いと思う?」と歌詞で問いかける。答えを曲中で出さないところがMOROHAらしい。

その一方で#1「RED」、#2「それいけ、フライヤーマン」などの曲で表現されるような大人ならではのガムシャラさもある。

破格のエナジーを感じた前作は緩みを許さない青春のガムシャラさの息苦しさがあったが、本作のMOROHAは成熟した大人のガムシャラさの頼りがいがある。

●揺るがないもの
前作の#3「ハダ色の日々」のような愛を歌う歌ももちろん健在だ。#4「Apollo 11」、#5「スペシャル」、#7「tomorrow」、#9「Salad bowl」がそれに当たるが、特に#4「Apollo 11」は、アフロの前の彼女が結婚式を行うので作った曲だが、こんなにも暖かい、永遠のように安定した善意と愛はここでしか聴けない。中村一義100sの『世界のフラワーロード』で示した安定した善意と愛は世界に対してのものだったが、本作の善意と愛はもっと泥臭いフェイストゥーフェイスの善意と愛だという気がする。

そして#8「GOLD」や#10「四文銭」のようなリスナーをその血潮の熱さで鼓舞する曲に安心するのだ。ここ最近の僕は根拠のある批判にひるみ、根拠のない悪意を恐れ、身近な友人の「死にたい」という言葉に引き寄せられるように、タナトスの憂鬱の底にいた。MOROHAのアフロが「だいじょぶ だいじょぶ」と歌うと憂鬱が安堵に変わる。これから苦しくなった時に僕は何度もこのアルバムに立ち返るのだろう。絶対に揺るがない愛も熱意もここにあるんだなって。

 

MOROHA III

MOROHA III

 

 




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